no.026 「建築学生はただ設計演習に取り組むばかりが能じゃない」
     2012年博士後期課程修了 安藤ゼミ 種田 元晴
   
 

 私は2001年に学部に入学し、この春に博士課程を修了しました。大学に長くいたおかげで得られた出会いと機会がいくつかありました。今回は、迷いと不安の最も大きかった頃の出会いの一幕を綴らせて頂きたいと思います。

 学部生の頃の私は、日夜塾講師のアルバイトに明け暮れ、大学にまともに通っていませんでした。設計製図だけはまじめにやっていましたが、皆がレム・コールハースや妹島和世をしっかり勉強する中、ひとり土岐新やポール・ルドルフを参照するなど時代錯誤なことをやっていたように思います。

 修士課程に進み、まわりの創造的な学生の真似をして設計事務所にアルバイトに行きつつも、相変わらず、「勉強ってなんのためにするの?」なんて哲学的なことを言って逃避する中学生を相手に基礎を繰り返し説くことに熱中したり、夜通しで多様な講師仲間と建築以外のことを議論したり、建築家の講演会に通ってそのまま打ち上げに潜り込んで生意気を言ったりと、学外での口先ばかりの活動を続けていました。建築に関する勉学も、みんなが鹿島出版会の黒本を輪読する傍ら、祖母の書棚から発見した川添登著『建築家・人と作品 上/下』を愛読し、村松貞次郎著『日本建築家山脈』を暗記してひとりほくそ笑む有様でした。

 もうこれは大学を辞めるべきかな、なんてことも思っていた矢先、たまたま院生がメタボリストの方々にインタビューをする企画を知り、これならば口から先に生まれた私でもお役に立てるのでは、と思い立ち、また、川添登に会えるかもしれんという期待から、切願して何とかメンバーに入れて頂きました。いざ始まってみたら川添さんが対象者リストに入っていなかったというオチが付くのですが、しかし、そこをなんとか、とお願いしてリストに加えて頂き、インタビュアーをやらせて頂きました。

 インタビューでは、建築家山脈の暗記と口先の鍛錬が功を奏して川添先生に気に入られ、その後、日本生活学会での研究会にお供させて頂くことができました。そこでは、民俗学、家政学、文化人類学などのこれまで触れることのなかった領域の先生方とお話しする機会を得ました。同時に、川添先生からは、「建築について論じるつもりなら、建築以外にもうひとつ専門領域を持っておく必要がある」というお言葉を頂き、これを機に、建築を論じるべくまずは研究を深めたいという気が強くなり、かくして、私は博士課程に進んでしまうのでした。研究が続けられたのは方法論を与えて頂いた指導教官のお力添えによりますが、研究を志すきっかけを頂いた心の師として、今でも川添先生に私淑しています。

 

 川添先生へのインタビュー風景
 インタビューしたメタボリストたち
 
[プロフィール]    
種田 元晴
   2012年博士後期課程修了 安藤ゼミ
   

2012年大学院博士後期課程修了(安藤直見研究室)。博士(工学)。一級建築士。
現在、東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科助手。「法匠展」の幹事も務め、毎年似顔絵を出展しています。
「法政大学55/58年館の再生を望む会」でも事務局を務めています。