no.028 「建築と自然の最適解」
     1997年修了 陣内ゼミ 小堀 哲夫
   
 

  昨年地震がありました。突然、自然によってすべてのものが奪われた人のことを考えると、どうしても思考が停止してしまいます。たとえば関東大震災が明日起きて、自分の幸せな家族や家や街がまったくなくなってしまった事実に直面したときに、気が狂わなくても生きていけるかということが想像できません。普段、われわれはそういった考えなくてもいいことは、無意識に避けて生きています。避けないと生きていけませんし、結局人間は最後にかならず「死」がまっているという事実、またそれが明日かもしれないということなどは考えていません。

  実は建築を設計することは、考えなくてもいい事を人に代わって考えることだということなんじゃないかと思います。もちろん専門家として考えなければいけない建築法規、コスト、技術、要望、個人的好みなどはベースにありますが、生きることとはどういうことかとか、幸せとはどういうことか、自然とはなにかということを、プランニングやデザインで探すことだと思っています。

 人間や動物や昆虫は自然の一部であるということは考えればなんとなくわかります。ただ建築や構築物はどうでしょうか。自然から切り離されたものではなくて、かつて日本家屋を想像すればわかりますが、自然材料や、土地、気候、文化との最適解が建築でした。そのような最適解はすぐに出現したものではないですが、われわれは近代建築という時代を通して、自然と断裂した建築を経験した今、もう一度新しい自然との最適解を作っていく必要があるとおもいます。

  最近研究所の設計が多く、クライアントの要望の大小さまざまですが、研究とは、本来経済活動や生産性とは切り離され、考えなくてもいい事を考え、そして最終的には経済活動に還元していくところまでを目標とします。そういった研究が生まれる建築とはなんだろうかと、ずっと考えています。そこで考えていることも実は自然と人間との最適解です。いままさにそういった建築ができつつあることにとても興奮しています。

 

 南フランスのゴルド
 現在設計中の研究所
 
[プロフィール]    
小堀 哲夫
   1997年修了 陣内ゼミ
   

岐阜県大垣市生まれ 法政大学陣内秀信研究室を経て、久米設計。オフィスや研究所にて多くの建築賞を受賞し、2008年小堀哲夫建築設計事務所設立。企業のオフィスや研究所、東北や南相馬市の公共施設を手がけている