no.054

砕く

   

2001年修了 渡辺ゼミ  白川 在




 
     
 

先日、ある建物を設計したとき、左官材に練り込む粗骨材を関係者で石を砕いてつくった。求められた粒度の石を得るためには砕く以外に方法がなかったというのも理由の一つだが、多くの人が建築に愛着を持つためにはこの方法が適当だと考えたからだ。

瀬戸内海に浮かぶ大島という島で採れる大島石。その石を砕くために、島に向かった。島の北側にある砕石場へは、途中で自分たちの車を降りトラックに乗り換える。トラックはスキーの上級者コースの様な山道を一気に登っていく。後ろを振り返ると死ぬ思いだったが、運転手は意に介さない。笑いながら「ときどき、スリップして崖に落ちるのよ・・・」と冗談なのか本当なのかわからないことを言う。採掘場に着くと、その光景は圧巻だった。極端に蹴上の大きな階段状に削られた石は、人の力がこれほどなのかと思い知らされた。そこで、石のクズをもらって作業場に移る。何人かで取り憑かれたように石を砕きながら、篩にかけた。最初は楽しそうに話しながらやっていた作業も、そのうち黙々と集中し、さらにその後は険悪なムードになった。それでも終わりが見えるとまた集中し、もう一度黙々と作業に戻る。半日を費やして、ようやく全てを砕き終えた。みんな、苦笑いしながら「二度とやりたくない」と言っていた。

半年以上経って、建物が竣工すると、その中の一人が外壁に手をかけながら笑顔で僕に言った。「これ、僕がつくったんよ」って。苦労の多い建物だったが、誇らしげな顔を見ると、たぶんこの建物は色んな人の愛情を受けるだろうなと思う。

 

最近、建築との関わり方を模索するために多くのワークショップが催される。中には住民参加の踏絵に用いられることもあり、その全てが良いとは全く思えない。逆に、民主的な方法が必ずしも現状を打開できるほど状況が甘くない場合も多い。ただ、こういう契機を持つことで、施主やユーザーと建築の距離を縮めてくれることを実感する。また、その方法でしかできない形状や空間にふれると、それは風景と言うより風習をつくる様な素敵な出来事になるのではないかと思う。

 


 

 
  採掘場入口
   
 
 
採掘場
   
 
  ワークショップ
   
   
   
   
 
 
[プロフィール]    
白川 在   2001年修了 渡辺ゼミ
   

愛媛県今治市生まれ 法政大学渡辺真理研究室を経て、伊東豊雄建築設計事務所。2009年白川在建築設計事務所設立し、多くの建築賞を受賞。現在は寺院施設、商業施設、住宅などを手がけている。

経歴

1976 愛媛県生まれ。

幼少期を東京都世田谷区や瀬戸内海に浮かぶ中島(愛媛県松山市)、愛媛県今治市等で過ごす

2001 法政大学大学院 修士課程修了

2001-2002 法政大学大学院 渡辺真理研究室研究生

2001-2006 伊東豊雄建築設計事務所勤務

2007    建築設計白川冨川設立

2009    白川在建築設計事務所に改組

2009 -  法政大学デザイン工学部兼任講師

2010 -  武蔵野美術大学建築学科非常勤講師

 

受賞

2013    8回日本漆喰協会作品賞「栄福寺演仏堂」

2012    JIA優秀建築選「栄福寺演仏堂」

2012    アジアデザイン賞(香港) 銅賞「栄福寺演仏堂」

2012    グッドデザイン賞「間伐材トイレ」

2012    LEAF Awards 2012 (英国), Young Architect of the Year, Shortlisted

2012    JCD design awards入選 (BEST100) 「栄福寺演仏堂」

2012    JCD design awards入選 (BEST100) 「間伐材トイレ」

2010    愛知建築士会名古屋支部設立20周年記念建築コンクール 入賞

2010    八王子市商業施設Nプロポーザル 1等

2009    グッドデザイン賞「蒲原アルミゲートハウス」

2009    43SDA賞 奨励賞

2009    JCD design awards入選 (BEST100) 「蒲原アルミゲートハウス」

2007    グッドデザイン賞「たき工房外苑前オフィス-LOOP-