no.071

「地域性」をめぐる最近の3つの体験

   

1997年修了 大江新研究室 清水航太


 

私が建築学科に在学していた当時、教科書や専門雑誌を飾る○○イズムと称されるような主流の思想とはやや距離置いて、「ゲニウス・ロキ」「ヴァナキュラー」「アノニマス」といった言葉で表される、大きくは「地域性」「土地柄」という意味を内包する思想がありました。


◾︎1930年竣工の建物の復元

現代となっては無味乾燥なファサードの建物が並び、土地柄を感じにくくなった東京の街も、歴史を遡って調べると大変豊かなコンテクストがあることに気付かされます。
昨年春に竣工した「テラススクエア」の建つ神保町もそんな街のひとつでした。
ここにランドマークとして残っていた約80年前に建設された博報堂旧本館(岡田信一郎設計、1930年竣工)を、施主の理解により、超高層オフィスビルという高機能を求められる建物の傍らに、用途を飲食店に変更して復元しました。
街の歴史性を引き継ぎながら、さらに魅力を高められたのではないかと自負しています。


◾︎ブラジル

昨年夏、新婚旅行で妻と共通の第二の故郷であるブラジルへ約40年振りに降り立ちました。
ブラジルにはアマゾンの熱帯雨林、パンタナルの湿原、レンソイスの砂丘に代表されるような圧倒的な広さと存在感を持った大自然があり、建築は否応なくそれに向き合わざるを得ないようです。
経済発展が比較的近代になってから起こったブラジルにおいて名建築はオスカー・ニーマイヤーに代表される近代建築が多いようです。
これら近代建築の日本ではあり得ないような思い切った単純で力強い造形も、ブラジル特有の強い陽射しの下では違和感がないのが不思議です。


◾︎中国内陸部

昨年秋から中国内陸部で中国企業の巨大な機能的施設の国際コンペに挑戦中です。
敷地のある省は、省毎の経済規模比較では下位の方、高い高度に位置、50〜100m級の緩やかな小山がポコポコと連続する景観、「ひとつの山に四つの季節が同居する」という諺があるような変化のある気候、人口の約4割を少数民族が占めるという特徴があります。
部族は山々に特徴的な住宅様式の集落を形成して住んでおり、湾岸地域や中原とは一線を画します。
施主は、現在は別の省を拠点としていますが、元はこの省の出身です。
一般的には高い機能性・経済性のみを求められる用途であるにもかかわらず、常に「この省らしい」デザインを求められます。
最近はいかにしてこの要求に応えて勝利するか、日々頭を悩ませています。


さて、もう一度学生時代に立ち返って勉強しようか。

 

 
  テラススクエア
東京都神保町、2015年竣工
写真提供:住友商事株式会社、株式会社日建設計
撮影:SS東京
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  ブラジル国立美術館
ブラジリア、1956年竣工、オスカー・ニーマイヤー設計
   
 
  中国内陸部の集落の住宅
推定1940年代竣工(住民談話より)
   
   
   
   
   
 
[プロフィール]    
清水 航太   1997年修了 大江新研究室

 

1997年 大学院修士課程修了
同年    株式会社 日建設計 入社
以降テラススクエア、東京ミッドタウン、アイガーデンエアといった大型複合再開発を主として、様々な用途の設計を担当