no.078

サルディーニャのアルベルゴ・ディフーゾ
自然、民俗、歴史の融合×食・自転車の健康指向
   

西河哲也(1989年修了 陣内研究室) 


   

 2016年9月、イタリア・サルディーニャ島の『アルベルゴ・ディフーゾ』を訪ねた。アルベルゴ・ディフーゾ(Albergo Diffuso)とは、直訳すると「分散された宿」。宿泊施設が一つの建物で完結するのではなく集落やまち全体に広がりを持って、こちらの建物はレセプション、食堂、また、こちらの建物は部屋と、まち全体をホテルに見立てたイタリアでの集落再生、地域再生、地域経営、観光まちづくりの取り組みです。そもそもは、地震からの復興再生のためにと、地域経済学・マーケティングの大学教授であったジャンカルロ・ダッダーラ氏によって1982年に考案されたものです。現在、イタリア全土で110箇所を超えるアルベルゴ・ディフーゾがアルベルゴ・ディフーゾ協会に加盟、近年、特に高く評価されて大きく広がっているとのことです。私が瀬戸内の「島」に暮らしているので、同じ「島」を訪ねるとよいのではとアドバイスを受け、6泊7日、5箇所のサルディーニャ島内のアルベルゴ・ディフーゾを訪ねることにしました。

 最初に訪ねたのは、カブラスという西海岸にある小さな集落、海、入江のラグーナに面した素朴な町。その海に面して建つ立派な教会が印象的です。レセプションでオーナーと話をしているとサン・サルヴァトーレ教会に男たちが裸足で駆ける祭事が先週終わったばかりだとその様子のわかる動画を見せてくれました。ちょっとしたプールのある別施設には少女や女たちが聖像を運ぶ祭事の写真は壁に迫力満点で掲げられ地域の民俗性が強くアピールされています。

 少し山あいに入りサントゥ・ルッスルジュというとってもチャーミングなとっても小さな集落のアルベルゴ・ディフーゾを訪ねました。ナビが教会のバットレスのアーチの下を通るように指示、車一台やっと通れる街路を辿ってレセプションのある建物に着きました。ダイニングとなっている中庭には柿の木とレモンの木がシンボルツリーとして植えられ心地よいです。泊まる部屋は歩いて3分程のところ、ヒューマンスケールな街路を歩くのは心地良く、まるでこの町に暮らしているような気分になります。

 ボーザは川沿いの町です。川筋に沿って街がつくられ、そのまま裏手が石畳の中心街、チェントロ・ストリコで素晴らしい。そしてここのアルベルゴ・ディフーゾは、リバーサイド。聖母像の水上行列「海のマドンナ」の祭事があることでも知られます。

 トレズヌラーゲスという高地の小さな村にあるアルベルゴ・ディフーゾは、ボーザのすぐ側ですが、風景やおかれている環境は全く異なります。望む風景が凄いです地中海を雄大、というより壮絶に圧倒的に望んでみます。教会では丁度6時のミサでオザンナが歌われていました。地中海を望むこの風景は、まさに、天のいと高きところにオザンナのようです。

 バレッサという少し内陸に入って、サルディーニャから発つカリアリの空港に程なく遠くなく、とっても小さな村のアルベルゴ・ディフーゾを訪ねました。若いアルベルゴ・ディフーゾのオーナー自ら説明され、近くにある民俗資料館、また、タウンウォッチングと大車輪の活躍です。サルディーニャでのラストです。

 どのアルベルゴ・ディフーゾもオーナーの方やマネージメントされてる方の思いや個性、また得意とする分野へのこだわりが強く感じられます。また、利用している施設、建物は、全てリノベーション。家具や調度品、素敵な写真の民俗性へのこだわり。食の地元産へのこだわり。自転車、プール等の健康なアスレチック指向は共通で指向しているようでした。自然、民俗、歴史が融合して生まれるサルディーニャの独自性や真正性。それに、食、自転車などの健康指向が加わり、素朴ながらもとても魅力的なサルディーニャのアルベルゴ・ディフーゾがつくられ、それによる集落再生・地域再生・観光まちづくりを目指しているように思えました。また、故郷である瀬戸内の島「生口島」の集落再生・観光まちづくりにおいても大いに示唆されるものでした。

 
  朝はレセプション2階の素敵な場所(カブラス)
※ アルベルゴ・ディフーゾではレストラン・サービスが宿泊施設の内側あるいは外側で提供されること。また、朝食が保証されていることが条件となっている。
 
  宿泊施設となっている建物の共用空間(サントゥ・ルッスルジュ)
   
  ダイニングとなっている中庭は「柿の木」(手前)と「レモンの木」(奥)がシンボルツリーとして利用されている。(サントゥ・ルッスルジュ)
   
 
  ヒューマンスケールの街路を歩いて部屋のある建物に戻る。(サントゥ・ルッスルジュ)
   
 
  川沿いの街のアルベルゴ・ディフーゾでは、部屋はリバーフロント(ボーザ)
   
 
  地中海を望む高台のアルベルゴ・ディフーゾ部屋の前には自転車(トレズヌラーゲス)
   
 
  アルベルゴ・ディフーゾを運営している方々とレセプションで話をしていると、”the whole town can be your hotel”のコンセプト、東京谷中HAGISO hanare のパンフを紹介され、逆にこちらがびっくり(カブラス)
   
 
オーナーのお嬢さんと丁度滞在されてらした日本の女性の方とお話をうかがう。(サントゥ・ルッスルジュ)
   
 
  私有の建物をコムーネが買い取り建物はコムーネが所有し、会社が運営する形式とのこと。(バレッサ)
   
 
  建築家であるオーナーの方から再生前の状態や工事中の様子を紹介いただく。またサルディーニャのアルベルゴ・ディフーゾ全14箇所が詳しく紹介される小冊子をいただく(トレズヌラーゲス)
   
   
   
   
   
 
[プロフィール]    
西河哲也   1989年修了 陣内研究室

   
(にしかわ・てつや)/地域プランナー
1960年生まれ。1986年卒業。1989年修了。
1999年単位取得退学。
陣内研究室修了後、(株)計画技術研究所、(株)地域総合計画研究所につとめる。
台東区谷中で仲間とともにまちづくりグループ『谷中学校』の運営を行う。また『谷中地区まちづくり協議会』の事務局を担う(NPOひとまちCDCとして)
CDC=Community Development Corporation
2013年、生まれ故郷である瀬戸内の島、広島県尾道市「生口島」に拠点を移す。
西河地域計画研究所 代表。東京工業大学非常勤講師。