no.132

無料建築
2021年6月  

数見 賢太郎(2017年修了 渡辺ゼミ) 


 東京という街の良いところは、無料で建築を楽しめるスポットが多くあるところだ。勿論、貴重な経験に投資するのは意義あることだが、「日常」の中で建築を楽しむには「無料」は何より嬉しい。先輩からリレーエッセイのバトンを渡されたが、諸先輩方には知識も経験も全く敵わないことは明白なので、卒業から年月が経っていないことを利点と捉えて、時間がありお金のなかった学生時代に渡り歩いた(今もお金はないが)東京の「無料建築」を挙げてみた。散歩の一助になれば幸いである。


TOTOギャラリー・間
言わずと知れた通称「ギャラ間」である。旬の建築家の力のこもった展示を無料で見られるのは嬉しい。3つのハコ(3階展示室、外庭、4階展示室)をどのように扱うかにも、建築家の個性が表れていて興味深い。


プリズミックギャラリー
若手建築家の展示を多く企画しており、様々な模型表現を知れるのが楽しい。また建築家が在廊していることも多く、建築家の人となりを知りながら作品を知れるのが面白い。

スパイラル
ジャンルを問わず幅広い展示を名建築の中で見ることができ、展示空間、ショップを抜けた先にある段状の空間に置かれている椅子に座り、街路を行きかう人を眺めている時間には何事にも代えがたい魅力がある。

国立近現代建築資料館
近現代の名建築家の手書きの原図の迫力は凄まじいものがある。事務室に立ち寄れば展覧会の冊子を無料でもらえるのも嬉しい。

 現在この文章を書いている2021年5月現在、3回目の緊急事態宣言の真っただ中である。全国のギャラリーは苦境に立たされ、上に挙げたギャラリーも現在休廊している。ヴァナキュラーな視点から現代を見据えた示唆に富んだ展示を行ってきたLIXILギャラリーは、2020年9月に閉廊してしまった。

 ただこのようなコロナ禍の状況を発想の転換で乗り越えてしまおうとする所もある。
 作品が集めることができない状況を逆手にとり、美術館そのものを展示物としてしまった、世田谷美術館の「作品のない展示室」や、同様に海外から作品を持ってこられないことを逆手に収蔵作品に新たな見方を見出したオペラシティアートギャラリーの「ストーリーはいつも不完全……」「色を想像する」等だ。

 「無料建築」は都市の魅力であるし、文化であると思う。創意工夫をもってコロナ禍を乗り越えてくれることを切に願う。

 


世田谷美術館「作品のない展示室」(1)
 
世田谷美術館「作品のない展示室」(2)
 
 
 
 
 
 
 
 
[プロフィール]    
     
数見 賢太郎 2017年修了 渡辺ゼミ

   
2017年 法政大学大学院 修了 (渡辺研究室)
2017年-  設計組織ADH勤務