渡邉真理先生 2012年日本建築学会作品賞

 

 2012年日本建築学会作品賞を渡邉真理先生が代表を務める設計組織ADH設計の「真壁伝承館」が受賞しました。ADHを共同主催する木下庸子さん(工学院大教授)と、構造設計の新谷眞人さん(オーク構造設計事務所代表)と同時受賞したものです。

 日本建築学会の受賞理由をここに転載します。


  この建物は、図書館、歴史資料館、集会施設、ホールが入る多目的複合施設であるが、設計上の大きな課題は、東から南に連なる筑波山系を背に、戦国期の真壁城に付属した集落を起源とし、江戸時代に陣屋が置かれた在郷町として発展した桜川市真壁の重要伝統的建造物群保存地区の中にあるという場所性・歴史性への応答であった。

  設計者はこの課題に対して、「サンプリングとアセンブリー」という斬新な設計方法を提案する。すなわち、街並みを構成する建物のプロファイルを複数採寸し、施設の計画的な要請に応じて組み上げるという方法がそれである。これはA.ロッシの〈タイポロジー〉の考えとも響き合うが、実は近代以前の一般的な方法であった。伝統的建築は長い時間をかけて多くの人々に使用され、少しずつ進化したもので、それらが互いに他を活かすことによって、美しい街並みを形成してきたのである。設計者は抽出された類型を組み合わせて、都市や歴史との連続性を継承しつつ、現代の機能や意味を充足し、未来を拓く建築空間を市民とともに創造する設計プロセスを展開したのである。

  こうしたプロセスを経て、スケール感、プロポーションともに素晴らしく、全体として美しく落ち着いた佇まいを感じさせてくれる見事な建築空間が出現した。内外に反復して現れる家型の基本形状は懐かしい集合記憶を喚起し、中庭に用いられた真壁石や外構の素材の違いによる陣屋跡遺構表示は地域や歴史とのつながりを想起させ、黒茶色に塗られたスギ木板のすかし貼りと白い遮熱塗料仕上げのコントラストは、伝統的でありながらモダンな雰囲気を醸し出している。分散配置された施設のコンポジションが、通り抜け、広場、道空間などの豊かな媒介空間を創出している点も見応えがある。

  外壁面を構成する鋼板パネルとパッシブソーラー設備という先端技術の導入は、未来の創造へのチャレンジの表現でもある。特に鉄板構造は自由度の高い開口部の設置を可能にしている。外壁に点在する大小の窓、内壁の窓を通して、遠くの山々や街並み、広場や内部空間、行き交う人々の眺めを楽しむことができる。窓の大きさや位置に呼応して寸法を決め配置した家具などにも細やかな気遣いが認められる。以上のように本作品は、建築と都市、建築と歴史、作り手と使い手の間に連続性を構築する新たな設計方法を提示するとともに、その実践を通して極めて質の高い建築空間を創造することに成功している。

  よって、ここに日本建築学会賞を贈るものである。__

[日本建築学会]

[設計組織ADH設計]

 

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