2008年度講評会

 

 第5回大江宏賞講評選考会は、2009年3月28日(土)に、法政大学市ヶ谷田町校舎5階、マルチメディアホールにて行われた。
 最終選考に残った7人の作品の公開審査が行われ、獲得点数の多かった、野村裕志君(富永研究室)と坂本孝樹君(陣内研究室)の二人で決選投票となった。坂本君は修士論文であり、修士設計に対して与えられるとした、大江宏賞の趣旨に反するのではないかと言う議論もあったが、論文の内容に多くの審査員を納得させる説得力があるとして、坂本君が第5回大江宏賞を受賞することとなった。

 4月30日に市ヶ谷の私学会館において、大江宏賞運営委員会より坂本孝樹君に対して、受賞者名の刻印されたメダルが授与された。
 メダル授与の後、懇親の席で、坂本君より大江宏賞をめぐる話を聞くことが出来たので、その要約を掲載する。

−論文で大江賞に挑戦するときにどんなことを考えましたか。
坂本:

先生方からは、論文で賞を獲る可能性は1%しかないよと言われていました。設計で提出する人たちは、模型、プレゼンボード、図面など武器は色々あるので、僕は言いたいことを100%伝えることだけを目標にしました。

 

− 修士設計を取るか、修士論文を取るかで悩むことは?
坂本:

修士設計を行うにはスタジオを取らないといけないことと、就職活動の時期が重なって、時間的に卒業設計を取ることは大変なのですが、その点は修士論文の方が比較的やりやすいと思います。
その代わり、今回は後からドローイングを一枚書くと言う条件が課せられましたけれども。

 

− 坂本君は設計事務所への就職希望なのに、修士設計ではなく、あえて修士論文を選んだ理由は何。
坂本:

これから設計をやってゆく上で、敷地を知ると言うことがとても大事なことだと思います。僕自身東京のことはよく知らなかったので、学生のうちに東京のことをより多く知っていれば、将来の設計のときに役に立つはずだと思いました。
東京の面白さについて考えるようになったのは、陣内研究室に入ってからの陣内先生からの影響が強いと思います。
また、歴史をデザインに組み込んでゆく姿勢が、設計の中にもっとあってもよいのではないかと思います。

 

− 論文の中で東京の調査地はいくつぐらい?
坂本:

全部で220位あります。

 

− それは、後輩たちに手伝ってもらって調査したのですか。
坂本:

いいえ、全部一人でやっています。やはり、ひとつひとつ自分の目で確かめたかったものですから。

 

− 調査地を選ぶ基準のようなものは。
坂本:

僕は元々横浜の出身なので、東京のことは良く知らなくて、新宿とか六本木のコンクリートジャングルと言うイメージが強かったのですが、実際に町を歩いてみると、坂の多い、きもちの良い空間がいっぱいあります。
4年生のときに陣内研究室でイタリアに行きました。そのときの調査で、アマルフィーの斜面都市の魅力に取り付かれました。同じような空間の魅力を東京でも見つけられるのではないかと思いました。

 

 大江宏先生は、設計に先立ってまず、フィロソフィーがなくてはいけない。哲学を持って設計をすることが大事だと常々言っていた。そういう意味で坂本君の論文は、大江賞の精神に一致するのかもしれない。又、宮脇檀先生から、陣内秀信先生に繋がる、デザインサーヴェイ、フィールドワークの成果が、坂本君の論文の中に現れているのでは、など、大江宏賞運営委員の間からも多くの意見が出るなかで、この日の会は終了した。
 

 

平成21年3月28日(土)13:30〜 法政大学市ヶ谷田町校舎(デザイン工学部棟)5F マルチメディアホ−ルにて

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